大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

東京高等裁判所 平成3年(行ケ)88号 判決

大阪府守口市京阪本通2丁目18番地

原告

三洋電機株式会社

代表者代表取締役

井植敏

鳥取県鳥取市南吉方3丁目201番地

原告

鳥取三洋電機株式会社

代表者代表取締役

米山幸太郎

原告両名訴訟代理人弁理士

鎌田文二

東尾正博

鳥居和久

東京都千代田区霞が関三丁目4番3号

被告

特許庁長官 高島章

指定代理人

一色貞好

橘昭成

奥村寿一

涌井幸一

主文

原告らの請求を棄却する。

訴訟費用は原告らの負担とする。

事実及び理由

第1  当事者の求めた判決

1  原告ら

特許庁が、平成2年審判第767号事件について、平成3年3月7日にした審決を取り消す。

訴訟費用は被告の負担とする。

2  被告

主文と同旨

第2  当事者間に争いのない事実

1  特許庁における手続の経緯

原告らは、昭和58年6月28日、名称を「ファクシミリ装置」とする発明(以下「本願発明」という。)につき特許出願をし(昭和58年特許願第117919号)、昭和63年2月29日これにつき出願公告がなされたが(特公昭63-9420号)、松下電器産業株式会社、シャープ株式会社、岡田興典、富士ゼロックス株式会社、松村貞夫により特許異議の申立てがなされた後、平成元年8月14日に拒絶査定を受けたので、平成2年1月25日、これに対する不服の審判の請求をした。

特許庁は、同請求を同年審判第767号事件として審理したうえ、平成3年3月7日、「本件審判の請求は、成り立たない。」との審決をし、その謄本は、同年4月8日原告らに送達された。

2  本願発明の特許請求の範囲

「指定時刻、指定動作モード及び交信先電話番号を入力するキーボードと、現在時刻信号を発生する時計回路と、キーボードより入力されたデータを記憶するメモリ手段と、該メモリ手段に記憶されている指定時刻と時計回路の現在時刻を比較し、一致した時指定動作を行なうよう制御する制御手段よりなり、指定時刻に達した時停電等により指定動作を行なえず指定時刻を過ぎた場合には、この指定時刻の経過及び動作可能状態を検出した時指定動作を行なうよう構成したことを特徴とするファクシミリ装置。」(平成2年1月25日付け手続補正書で補正された本願明細書の特許請求の範囲記載のとおり)

3  審決の理由

審決は、別添審決書写し記載のとおり、本願発明は、本願出願前頒布された刊行物である特開昭58-64865号公報(昭和58年4月18日出願公開。以下「引用例」という。)に記載された発明(以下「引用例発明」という。)に基づいて当業者が容易に発明することができたものであると判断し、本願発明は特許法29条2項の規定により特許を受けることができないとした。

第3  原告ら主張の審決取消事由の要点

審決の理由中、本願発明の特許請求の範囲の記載、引用例の記載事項の各認定は認める。

本願発明と引用例発明との一致点の認定(審決書4頁7~17行)は、その中の「指定動作を行なえず」(同4頁14行)とは、指定した動作の目的が達せられない場合全般を意味し、例えば停電により指定動作の開始そのものができない場合、相手方ビジーである場合のいずれもこれを含む意味であり、「動作可能状態」(同16行)とは、指定時刻において存在した障害がなくなった状態を意味し、「指定動作を行なう」(同行)とは、指定時刻において障害の存在したステップを実行することを意味することを前提として、認める。

両者の各相違点の認定は認めるが、これについての判断はいずれも争う。

審決は、各相違点についての判断を誤り、その結果、誤った結論に至ったものであるから、違法として取り消されなければならない。

1  取消事由1(相違点(1)についての判断の誤り)

審決は、「ファクシミリ装置の動作にいくつかのモードがある場合に、該装置を動作させる際にモードを設定する必要があることは当然のことである」(審決書5頁15~17行)とし、これを前提に、「そのようなファクシミリ装置に引用例に記載されるような技術を適用する場合、宛先電話番号、送信時刻の他に動作モードを設定するようにすることは、当業者が必要に応じて適宜成し得ることである。」(同5頁18行~6頁2行)と判断している。

しかし、引用例発明は、相手側ビジー(注、相手側装置が使用中であること)で送信を行えない場合の問題、すなわち、送信側には支障がなく、送信側では正常に送信動作が開始されたときに、相手側に支障があって目的が達せられない場合の問題を解決する技術であるから、送信側の動作モードは送信動作モードであることが前提であり、引用例発明において送信動作以外のモード(相手側ファクシミリ装置から送信側に向かって送信を行わせるポーリング受信等)を設定することは全く考える必要のないことであり、現に、引用例には、送信動作モード以外のモードを設定できることを示唆するものは全くない。

したがって、引用例発明においても、キーボードで入力するデータとして指定動作モードを設定することは当業者が適宜なしうるとする審決の判断は、明らかな誤りといわなければならない。

2  同2(相違点(2)についての判断の誤り)

(1)  審決は、「本願発明における『停電等により』は、単なる例示に過ぎず、実質的な意味は何ら認められず、この点は、実質的な相違点とは認められない。」(審決書6頁4~6行)として、本願発明の「指定時刻に達した時停電等により指定動作を行なえず」には、引用例発明が問題とする相手方ビジーの場合も含まれると認定している。

しかし、本願発明における「指定時刻に達した時停電等により指定動作を行なえず」とは、その文言どおり、「指定時刻に達したちょうどその時に指定動作そのものを行うことができない」こと、すなわち、指定時刻に達したときに送信側に停電等の支障があって、例えば、指定動作が送信動作であれば、指定した交信先電話番号を読み出すという動作の開始ができないことであり、本願発明は、指定動作の開始ができない場合以外のことは問題にしていない。

本願発明が問題とするのが送信側の原因により指定動作の開始そのものができない場合であることは、本願明細書の特許請求の範囲に、「指定時刻に達した時停電等により指定動作を行なえず」との記載以外に、「一致した時指定動作を行なう」、「動作可能状態を検出した時指定動作を行なう」と記載して、本願発明が指定動作の開始時点の技術であることに限定していることから明らかである。

このことは、本願明細書の発明の詳細な説明の欄の従来例における問題点の指摘、本願発明の目的及びその構成、実施例の記載中の以下の各記載が、いずれも送信側における指定動作の開始時点を問題にしているのに対し、送信側に支障がなく相手側に支障がある場合に関することは、本願明細書において全く述べられていないことによって、更に明らかとなる。

「最近のフアクシミリ装置に於いては、時計機能及びタイマ機能を内蔵し、指定した時刻に指定した動作例えば送信あるいはポーリング受信を行なうよう構成されているが、指定した時刻に停電していたり、あるいは他の動作中例えば受信中とかコピー中の場合には、指定動作が行なえない為、その時点で指定動作を解除するよう構成されており、指定動作が行なえないという問題があつた。」(甲第2号証1欄17~24行)

「本発明は上述の問題点を解消したフアクシミリ装置を提供することを目的とするものである。」(同2欄1~2行)

「本発明は、指定した時刻に停電が発生したり、あるいは他の動作中の為指定動作が行なえなかつた場合には、動作可能になつた時点で指定動作を行なうよう構成したものである。」(同2欄4~7行)

「指定時刻に達すると25のステツプに進み受信中あるいはコピー等の他の動作モードになつているか否かのチエツクを行ない」(同4欄2~5行)

「動作していない場合は直ちに又動作している場合は動作終了後指定動作を開始し、第2メモリ7に記憶されている送信先データを基に、第1メモリ5から該当の電話番号を読み出し発信した後送信を行なう。」(同4欄6~11行)

「指定時刻に停電していた場合、指定時刻になつても指定動作を行なうことが出来ない」(同4欄11~12行)

「停電復帰で25のステツプから前述と同様に指定動作を行なう。」(同4欄15~16行)

「停電復帰後直ちに指定動作を行なう。」(同4欄22行)

「停電復帰と同時に指定動作を開始し」(同4欄43行)

このように、本願発明における「指定時刻に達した時停電等により指定動作を行なえず」とは、「指定時刻に達したときに送信側に停電等の支障があって指定動作の開始そのものができない」ことであり、本願発明は、指定動作の開始ができない場合以外のことは問題にしていないのであって、原告らは、既に審査の段階から、この旨を明言してきた(例えば、シャープ株式会社の異議申立てに対する平成元年4月7日付け答弁書3頁18行~4頁9行)。

にもかかわらず、審決は、本願発明と引用例発明との間に存在する問題解決の対象に関する真の相違点を、一応は相違点として認定しながら、本願発明の要旨を誤認した結果、結局は、上記のとおり、これを真の相違点ではないと誤認してしまった。

被告は、本願発明にいう「指定動作を行なえず」という状態は、「指定動作の開始そのものができない」という状態に限定されず、「指定動作が完結できない」状態をすべて含むと解釈して、これを前提に論を進めるが、このような解釈を根拠付ける記載は、本願明細書のどこにもない。このような解釈は独断による拡大解釈という以外になく、失当であることは明らかといわなければならない。

(2)  審決は、「なお、この点について付言すれば、」として、「ファクシミリ装置において、送信開始を指令しても送信を行なえないケースとして、相手側がビジーである場合の他に、本願明細書に記載されているような、停電の場合や当該ファクシミリ装置が他の動作を行なっている最中である場合があることは、明らかである」(審決書6頁6~13行)ことを挙げ、これを根拠に、直ちに、「引用例に記載されたものにおいて、そのような場合にも再トライするようにすることは、当業者が容易に想到し得ることである。」(同6頁13~15行)と判断している。

しかしながら、そもそも、引用例発明における相手方のビジー状態の検出とは、指定時刻に達したとき正常に指定動作を実行し、その結果として普通に得られる指定動作の結果の一つであり、したがって、相手方のビジー状態の検出に基づき再トライを行うという処理は、正常な状態に対するものであるのに対し、本願発明は、「指定時刻に達した時停電等により指定動作を行なえず」という、指定動作を行うべき時刻が到来しているにもかかわらずこれを開始することができないという異常な事態に対するものである。

そうとすれば、相手方ビジーの状態という正常な状態に係る引用例発明の技術の認識を前提にしても、これとは発想の方向が180度異なる異常な事態である「指定時刻に達した時停電等により指定動作を行なえず」という事態への対処の仕方に係る技術に想到することは、当業者にとって容易でなかったといわなければならない。

被告は、ある機械が、あるモードの動作の指定時刻に、停電中、あるいは他のモードで使用中のためそのモードで使用できないという事態は、ファクシミリ以外の電気機械において一般的に広く認められる現象であり、そのような場合に、停電中あるいは他のモードで使用中は待機状態にしておき、それらの障害がなくなった時点で指定動作を行わせることは、電気機器の分野で広く採用されている慣用的な技術であるから、ファクシミリに特有な現象である相手方ビジーの状態の問題点の解決に代え、指定動作の開始時点の問題点を上記慣用技術を用いて解決する程度のことは、特に進歩性のあることではない旨主張する。

しかし、被告主張の周知慣用技術に基づく認定判断は、審査・審判の段階において全く示されておらず、このような主張を訴訟の段階になって初めて行うことは、特許法50条(平成5年法律第26号による改正前のもの)の拒絶理由通知の規定に反し、許されないものといわなければならない。

被告は、被告主張の周知慣用手段の例として特開昭53-39836号公報(乙第2号証)及び特公昭56-48102号公報(乙第3号証)に記載された発明を挙げ、これらの公報は本願の異議申立ての証拠資料とされていたから、手続においても問題がない旨主張する。

上記各公報が本願の異議申立ての証拠資料とされていたことは認めるが、これらに記載されているのは、被告主張の周知慣用手段の例となるものではない。

特開昭53-39836号公報(乙第2号証)に記載されているのは、「一部回路にのみ常時電力を供給すると共にアドレスカウンターの出力又はROMの番地出力を停電時又は必要時に禁止し、回復時にはアドレスカウンターへのリセツト動作を禁止する制御回路を提供するもの」(同1頁右欄9~14行)であるから、この発明は、単に、制御装置であるCPUがプログラムを実行している最中に停電等によりプログラム実行が一時中断された際のための対処法に係るものであり、指定動作開始後に生ずる停電等の異常事態発生時の対策についての発明であって、指定動作を開始する前に関する技術ではない。

特公昭56-48102号公報(乙第3号証)に記載されているのは、「通信モード1の実行中に通信モード2に対応するモードボタンを押下すると、通信モード1の実行終了に続いて通信モード2の実行を開始する」発明であるから、この発明は、単に、モード1の動作実行中にこのモード1の終了時点(本願発明の指定時刻に相当)でモード2の実行を開始すること(本願発明の指定動作に相当)を予約できる方法に係るものであり、これまた、指定動作開始後に生ずる停電等の異常事態発生時の対策についての発明であって、指定動作を開始する前に関する技術ではない。

このように上記各公報に記載されているのは、単に指定動作開始後に生ずる停電等の異常事態発生時の対策についての発明(前者)又は実時刻に代えて他の動作の終了時点を指定動作の開始時点として指定できる発明(後者)に係るものであり、いずれも、指定時刻に達したとき停電等により指定動作を開始することができない場合に対処する技術ではなく、被告主張の周知慣用技術の例となるものではないから、本願発明が引用例発明と周知慣用技術に基づいて容易に想到できたとの指摘は、上記各公報が審査の段階で示されていたことを考慮に入れても、結局、本願の審査及び審判の段階を通じ、何らなされていないものといわなければならない。

3  同3(相違点(3)についての判断の誤り)

審決は「引用例に記載されたものにおいても、再トライするのは、中央処理部によって指定時刻が経過したことを検知した後であり、また、再トライする際には、当然送信が可能かどうかみて、可能な場合のみ送信させるものである」(審決書6頁17行~7頁1行)と認定したうえ、このことから直ちに「この点も実質的な相違点とは認められない。」(同7頁1~2行)とする。

しかし、引用例発明においては、送信側は送信可能状態にあることが前提であり、「再トライ」するのは、送信側において送信動作を開始した後に、相手側がビジーである場合である。すなわち、引用例発明の「再トライ」とは、指定時刻に達したときにとりあえず一度目の指定動作を開始し、その指定動作の実行中にある条件(相手方ビジー状態の検出)が満たされて初めて実行される動作である。そのため、引用例発明においては、指定時刻に停電等により指定動作自体が開始できないときは、指定動作のデータの一つである相手方の電話番号さえ発信できないから、相手方がビジー状態であるか否か自体検出できず、上記条件は満たされないため、再トライ動作に移行できず、結局のところ指定動作は実行されないままとなる。

これに対し、本願発明においては、指定動作開始条件は指定時刻の経過及び動作可能状態の検出のみであるから、指定時刻に停電等で指定動作を行えなかったときでも、指定時刻が経過し停電等の事由が終了した時点で必ず指定動作は実行される。

引用例発明と本願発明との間には、指定時刻を過ぎた場合に指定動作を行う時点につき、上記のとおり大きな相違がある。

したがって、引用例発明においても送信が可能かどうかを見て可能な場合にのみ送信させるとする審決の認定は、明らかに誤りであり、これを前提にこの点も実質的な相違点とは認められないとする審決の判断にも明らかな誤りがあるといわなければならない。

第4  被告の反論の要点

審決の認定判断は正当であり、原告ら主張の審決取消事由はいずれも理由がない。

1  取消事由1について

本願出願前、ファクシミリ装置においては、複数の動作モードを持つものが一般に使用されていた(乙第1号証の1~3、昭和57年9月10日発行「新版ファクシミリの基礎と応用」)。

引用例において動作モードについて記載されていないのは、引用例発明が権利取得の対象にしたのが動作モードに係る事項でなかったからというだけのことであり、また、引用例発明の技術と動作モード選択の技術とが基本的に結び付かないという理由もない。

したがって、引用例に送信モード以外の動作モードに関する記載がないことから、引用例発明につき送信モード以外の動作モードを考えるのは困難であるとし、これを前提に審決を非難する原告らの主張は、明らかに失当という以外にない。

2  同2について

(1)  本願発明における指定時刻とは、文字どおりファクシミリ装置を使用し指定動作とされた何らかの動作を行おうとする時刻である。この場合、指定動作は特に限定されていないので、ファクシミリ装置の最も普通の動作である送信動作を例に見れば、この動作は、相手方のファクシミリを呼び出す動作、原稿を読んで電気信号に変換して相手側に送る動作等複数のステップの総称であるから、これら複数のステップ全部が実行できなければ送信という目的を実現することができない。したがって、送信動作可能状態にあるといえるためには、これら複数のステップ全部を実行し完了できる状態にあることが必要である。換言すれば、ファクシミリを使用する者にとって、最終的には送信の目的が達せられたか否かこそが問題なのであり、支障がどのステップにあるか自体に意味があるのではないから、特にその旨が断られない限り、「送信する」との表現が「送信動作の開始のみをする」ことを意味すると理解されることはありえない。

他方、原告らが主張の根拠として挙げるものを含め、本願明細書の文言の中に、本願発明が「指定動作を行なえない」場合を問題にすることを意味するものはあっても、それが「指定動作の開始ができない」場合のみを問題にするものであることを示すものはない。

そうである以上、本願明細書中の文言を根拠に、本願発明における「指定時刻に達した時停電等により指定動作を行なえず」とは指定時刻が来ても指定動作の開始ができない場合に限られるとする原告ら主張の解釈は、送信の開始さえできれば相手方に到達しなくても送信ができたと表現するのが通常であるというに等しく、不合理な限定解釈であることは明らかである。

したがって、審決が、「指定動作が行なえず」とは「指定動作を完了することができない」の意味であることを前提に、本願発明の「停電等により」は単なる例示にすぎないとみて、相手方ビジーであるため送信の目的が達せられない場合も「指定動作を行なえず」に含まれると解した点に誤りはない。

(2)  仮に、本願発明の「指定時刻に達した時停電等により指定動作を行なえず」が送信側の障害のため指定動作の開始自体ができない場合に限られるとしても、審決は、この場合について、原告らも認めるとおり、「なお、この点について付言すれば、」として、判断を加えており(審決書6頁6~15行)、この判断は正当である。

上述のとおり、ファクシミリ装置において、指定した時刻に指定した動作を行わせるという場合、送信を例にとるならば、送るという動作が完了しなければその目的が達成されないことはいうまでもなく、この目的達成の観点からすれば、目的が達せられない限りどこに障害があっても同じであって、障害が送信側にあるか相手側にあるか自体に意味はない。

他方、このような障害として、引用例発明が問題とする相手側ビジーの場合のほか、審決が述べるように、停電の場合や送信側のファクシミリが他の動作を行っている場合があることは明らかであるから、このような障害につき、審決が「引用例に記載されたものにおいて、そのような場合にも再トライするようにすることは、当業者が容易に想到し得ることである。」とした点に、何らの誤りもない。

原告らは、本願発明が指定動作を開始したくても開始さえできない状態に対処する技術であることを強調するが、本願発明においても、本願明細書に「指定時刻に達すると25のステツプに進み受信中あるいはコピー等の他の動作モードになつているか否かのチエツクを行ない」(甲第2号証4欄2~5行)とあるように、指定時刻に達してから動作可能状態検出手段が動作可能状態を検出するまでには、停電のときは別として、時間の経過はあるのであり、この点における引用例発明との差異は、指定時刻から動作可能状態検出手段が動作可能か否かを検出するまでの時間の長短の差にすぎないのであるから、この点において引用例発明との間に本質的な差異はなく、これをもって引用例発明からの容易推考性を否定する根拠とすることはできない。

次に、問題とする障害が引用例発明におけるように相手側ビジーの状態であるか本願発明におけるように送信側の事情であるかにより、障害に対処する実際の操作に相違が生ずるのは事実である。

しかし、ある特定のモードでの使用が、送信側の停電中あるいは他のモードで使用中等のため妨げられるという事態の発生は、ファクシミリ以外の電気機器において一般的に広く存在する事柄であり、そのような事態に対処するために、これら障害が継続している間は待機状態にしておき、障害がなくなった時点で指定動作を行わせるということは、例えば、停電中の場合につき特開昭53-39836号公報(乙第2号証)、他のモードで使用中の場合につき特公昭56-48102号公報(乙第3号証)にも見られるように、広く採用されている慣用的な技術である。したがって、引用例発明を前提とし、相手側ビジーの場合に対する対策に代えて、ファクシミリ以外の電気機器において広く採用されている上記慣用技術を用いて送信側の障害に対する対策とすることに、格別の困難はないといわなければならない。

この慣用技術を示す上記両公報は、本願の特許異議手続において、異議申立人から原告らに提示されており、同申立についての決定において、上記と同旨の判断が示され、この理由によって出願を拒絶するとの査定がなされているから、手続違反の違法をいう原告らの主張は失当である。

(3)  以上のとおりであるから、原告らの取消事由2の主張は理由がない。

3  同3について

本願発明は、本願発明の要旨に示されているとおり、指定時刻に達したときに指定動作を行えない何らかの障害が生じている場合に、それを検出し、その障害がなくなった状態を検出した時点で送信の開始をするという抽象的な定めによって成立しているにすぎないものであり、指定動作が可能か否かを動作可能状態検出手段がどのように検出するか等につき、同手段が常時検出するものであるか否かを含め、具体的な構成を規定しているものではない。

本願明細書の発明の詳細な説明の欄を見ても、本願発明がその要旨に示される以上に具体的なものであることを示す記載は見られない。

他方、引用例発明においても、問題とするのが相手側ビジーで送信できなかった場合である以上、指定時刻の経過が検知されていることは明らかであり、また、送信の目的を達成するためには、相手側がビジーでない状態であることが必要なことはいうまでもないことであるから、送信させるのは再トライにより相手側がビジーでないことが検出された場合であることも当然である。

そうとすれば、本願発明も引用例発明も、さきに存在した送信の障害が消失したことが検出されるまでは結果的に送信を行わないという点で共通であり、この点も実質的な相違点にならない。

審決が、「引用例に記載されたものにおいても、再トライするのは、中央処理部によって指定時刻が経過したことを検知した後であり、また、再トライする際には、当然送信が可能かどうかみて、可能な場合のみ送信させるものであるから、この点も実質的な相違点とは認められない。」(審決書6頁17行~7頁2行)としたのは、この極めて当然なことを述べたにすぎない。

第5  証拠

本件記録中の書証目録の記載を引用する(書証の成立はいずれも当事者間に争いがない。)。

第6  当裁判所の判断

1  取消事由1(相違点(1)についての認定判断の誤り)について

本願出願前、複数の動作モードを有するファクシミリ装置が一般的であって、このようなファクシミリ装置においては、利用者が複数の動作モードの内から、動作させようとする動作モードを選択指定するものであることは、本願明細書に、従来技術について、「最近のフアクシミリ装置に於いては、時計機能及びタイマ機能を内蔵し、指定した時刻に指定した動作例えば送信あるいはポーリング受信を行なうよう構成されている」(甲第2号証1欄17~20行)と記載されていることによって認められ、このことは、本願出願前の昭和57年9月10日に発行された「新版ファクシミリの基礎と応用」(乙第1号証の1~3)に、「パネルスイッチ、パネル表示の種類についても、選択設定タイプのものを例に示すと、図10.2のように、スイッチを押すことによって、順次設定モードが変化し、選択されたモードのみが点灯し、そのモードの状態選択が可能となる.」(乙第1号証の2、279頁下から7~4行)として、パネルスイッチによって複数の動作モードの中のいずれかを選択して設定するものが示されていることによっても裏付けられる。

この従来技術に基づいて引用例発明を見れば、引用例発明は、「宛先電話番号と送信時刻と送信原稿枚数から成る自動送信基準情報を予めメモリに記憶させ所定の時刻に自動的に宛先が指定されて原稿が送信されることにより、ファクシミリ送信装置の送信効率を向上させること」を目的とする(甲第4号証2頁左上欄4~8行)ものであるから、送信側の動作モードは送信動作モードであることを当然の前提としていることは、原告ら主張のとおりであると認められる。

他方、本願発明は、送信動作モードを含む複数の動作モードを備えるファクシミリ装置を前提にしており、その「指定動作モード」が、複数の動作モードの内から利用者が任意に指定した動作モードを意味し、したがって、送信動作モード以外の動作モードが指定された場合にも、適用できるものであることは、本願発明の要旨から明らかである。

審決は、引用例発明と本願発明の上記の相違を相違点(1)として挙げたうえ、これについて、「ファクシミリ装置の動作にいくつかのモードがある場合に、該装置を動作させる際にモードを設定する必要があることは当然のことであるので、そのようなファクシミリ装置に引用例に記載されているような技術を適用する場合、宛先電話番号、送信時刻の他に動作モードを設定するようにすることは、当業者が必要に応じて適宜し成し得ることである。」(審決書5頁15行~6頁2行)と判断している。

しかし、引用例発明は専ら送信動作に関するものであるのに対し、本願発明は送信動作のみならずその他複数の動作についても適用できるものであるから、引用例発明の技術が送信動作以外の動作に適用できる根拠を示すことなしに、これを単なる複数の動作モードを有するファクシミリ装置における動作モードの設定の問題に帰着させることはできないことは明らかであり、この点において、審決の上記判断は、相違点(2)、(3)の判断を待たなければ、それ自体としては、一見理由不備のそしりを免れないと見られるところである。

原告らが取消事由1において主張するところは、この判断の理由不備をいうものと善解できる。

しかし、この点は、取消事由2、3について判示するところからすれば、送信動作モードを含む複数の動作モードを有するファクシミリ装置を前提とする本願発明の構成は、引用例発明から容易に想到できると認められるのであり、また、複数の動作モードを備えるファクシミリ装置において一般的に行われている動作モード設定の技術を、特に引用例発明のファクシミリ装置において排除しなければならないと考えさせる事情が存在したことは、本件全証拠を検討しても見出せない。

これによってみれば、上記審決の判断は、結局のところ正当というべきである。

原告ら主張の取消事由1は理由がない。

2  同2(相違点(2)についての認定判断の誤り)について

(1)  本願発明と引用例発明とが、「指定時刻、交信先電話番号を入力するキーボードと、現在時刻信号を発生する時計回路と、キーボードより入力されたデータを記憶するメモリ手段と、該メモリ手段に記憶されている指定時刻と時計回路の現在時刻を比較し、一致した時指定動作を行なうよう制御する制御手段よりなり、」の点で一致するものであることは、当事者間に争いがない。

この事実と本願明細書(甲第2、第3号証)の発明の詳細な説明の欄中の本願発明を要約して説明する部分の「本発明は、指定した時刻に停電が発生したり、あるいは他の動作中の為指定動作が行なえなかつた場合には、動作可能になつた時点で指定動作を行なうよう構成したものである。」(甲第2号証2欄4~7行)との記載に照らせば、本願発明は、上記公知の構成を持つファクシミリ装置において、本願発明の要旨の後半に示される「指定時刻に達した時停電等により指定動作を行なえず指定時刻を過ぎた場合には、この指定時刻の経過及び動作可能状態を検出した時指定動作を行なうよう構成したことを特徴とする」ものであると認められる。

すなわち、本願発明は、タイマー機能によりファクシミリ装置に目的とする動作を実行させるに当たり、指定時刻に達した時、障害のため指定動作を行えないまま、指定時刻を経過した場合に、指定時刻の経過及び動作可能状態を検出し、その時点で再度指定動作を行うという抽象的な定めによって成立しているのであって、そこでは、採り上げる障害を「停電等により」と規定している点は別として、「指定時刻の経過及び動作可能状態」を検出する手段につき、それをどのように検出するか、常時検出動作をするものであるかを含め、何ら具体的な構成を規定しておらず、また、「検出した時指定動作を行なう」手段についても、特段の具体的な規定をしていないことが明らかである。本願明細書(甲第2、第3号証)の発明の詳細な説明の欄及び本願の添付図面中にも、本願発明の要旨とする構成が上掲記載によって示される以上に具体的なものとして解釈すべきものであることを明示する記載は認められない。

他方、引用例発明が「送信時刻、送信原稿枚数と宛名電話番号から成る送信基準を入力するキーボードより成る送信基準入力部1と、時計機能を有する送信時刻検出部3と、キーボードより入力された送信基準を記憶する送信基準記憶部2と、該送信基準記憶部に記憶されている送信時刻と上記送信時刻検出部の時計からの時刻とを比較し、一致した時送信基準で指定した所定の動作を行なうよう制御する中央処理部5よりなり、送信時刻に達した時相手側ビジーで送信を行なえない場合には、次の原稿を送信する時刻までは、何分かおきに再トライするようにしたファクシミリ送信装置。」(審決書3頁5~17行)であることについては、当事者間に争いがない。

すなわち、引用例発明は、タイマー機能によりファクシミリ装置に目的とする動作を実行させるに当たり、指定時刻に達した時、障害のため指定動作を行えないまま、指定時刻を経過した場合に、指定時刻の経過後、再度トライして動作可能状態であれば、その時点で指定動作を行うものであると認められる。

(2)  ところで、ファクシミリ装置において、指定した時刻に指定した動作を行わせようという場合、例えば引用例発明が問題とする送信を例にとるならば、この場合の指定動作の目的は、あくまでも送信側から受信側に所定の文書等の写しを送り終えることであって、所定の文書等の写しを送るというこの動作が完了しなければこの目的が達成されないことは、自明の事柄といわなければならない。

送信は、相手方のファクシミリを呼び出す動作、原稿を読んで電気信号に変換して相手側に送る動作等複数のステップの総称であって、これら複数のステップ全部が実行できなければ送信は完了しないものであることは当裁判所に顕著である。

そうとすれば、上記各ステップのうちどの段階のものにも障害がないことが目的達成にとって必須であり、この目的達成の観点からすれば、目的が達せられない限りどこに障害があっても同じであって、障害が送信側にあるか相手側にあるか等自体に意味はないことは、当業者に容易に認識されうることであったといわなければならない。

以上の事実に基づけば、本願発明の要旨においては、指定動作を行いえない障害が「停電等により」と規定され、それ以上に具体的な規定はされていないのであるから、この要旨に基づいて本願発明を見る当業者は、「停電」は例示にすぎず、本願発明を、広く指定時刻に指定動作のできない場合に対処する技術として理解するものと認められる。

したがって、審決が、相違点(2)につき、「本願発明における『停電等により』は、単なる例示に過ぎず、実質的な意味は何ら認められず、この点は、実質的な相違点とは認められない。」(審決書6頁4~6行)としたことに誤りはないといわなければならない。

(3)  仮に本願発明が採り上げたのは、指定時刻に指定動作の開始そのものができないという送信側の障害に限られるとの原告らの主張を前提として検討しても、ファクシミリ装置利用者の目的を達成させるという上記観点から見た場合、本願発明も引用例発明も、タイマ機能によりファクシミリ装置に目的とする動作を実行させるものである点、タイマ機能による自動的作動に何らかの障害が発生した場合に対処する技術である点において共通であり、したがって、相違点(2)に関する限り、両者の相違は、対処すべき障害として何を選択したかに尽きるということができる。

ところが、特開昭53-39836号公報(乙第2号証)には、停電時に対処することのできるプログラム制御装置の発明が、特公昭56-48102号公報(乙第3号証)には、他のモードで動作中には待機状態にしておき、それが終了すると指定動作の実行が開始される通信モード予約方式の発明がそれぞれ開示されており、これらによると、目的とする動作を実行させるうえでの障害が当該機器側にある場合にこれに対処すべき必要性は、本願出願前から当業者に自明の事柄であったものと認められる。この事実と本願明細書の「最近のフアクシミリ装置に於いては、時計機能及びタイマ機能を内蔵し、指定した時刻に指定した動作例えば送信あるいはポーリング受信を行なうよう構成されているが、指定した時刻に停電していたり、あるいは他の動作中例えば受信中とかコピー中の場合には、指定動作が行なえない為、その時点で指定動作を解除するよう構成されており、指定動作が行なえないという問題があつた」(甲第2号証1欄17~24行)との記載からすると、ファクシミリ装置においても、上記必要性は当業者に認識されていたものと認められる。

そうとすれば、相手側ビジーに対処する技術を開示した引用例発明の下で、対処すべき障害として、本願発明の「指定した時刻に停電が発生したり、あるいは他の動作中の為指定動作が行なえなかつた場合」(同2欄4~6行)を想到することに格別の困難があったと認めることはできない。

原告らは、前示各公報に開示されている技術内容は本願発明と異なる旨主張するが、上述したところは、それらに開示されている技術内容を問題とするのではなく、目的とする動作を実行させる障害が当該機器側にある場合にこれに対処すべき必要性が電気機器において広く認識されていたことを示すものとして採用したのであるから、原告らの主張は当たらない。

また、原告らは、引用例発明の採り上げる相手側ビジーの状態は正常な状態であり、本願発明の採り上げる指定時刻が来ても動作の開始ができない状態は異常な事態であって、それぞれに対処する発想は180度異なるから、相手側ビジーの状態を問題とする引用例発明から指定時刻が来ても動作の開始ができない状態を問題とする本願発明に想到することは容易でない旨主張するが、上述のとおり、本願発明は、この相違に対処する具体的な解決手段をその要旨として規定していないのであるから、上記の両者の相違はせいぜいその発生の頻度の相違に由来する実際上の重要性の相違にあるにすぎず、この相違が引用例発明から本願発明に想到することを困難にするほどのものであるとは考えられない。

以上のとおりであるから、審決が「ファクシミリ装置において、送信開始を指令しても送信を行なえないケースとして、相手側がビジーである場合の他に、本願明細書に記載されているような、停電の場合や当該ファクシミリ装置が他の動作を行なっている最中である場合があることは、明らかであるので、引用例に記載されたものにおいて、そのような場合にも再トライするようにすることは、当業者が容易に想到し得ることである。」(審決書6頁7~15行)とした点に誤りはない。

(4)  本件全証拠を検討しても、上記判断を覆すに足りる資料を見出すことはできず、原告ら主張の取消事由2は理由がない。

3  同3(相違点(3)についての認定判断の誤り)について

上述したとおり、本願発明は、タイマー機能によりファクシミリ装置に指定動作を実行させるに当たり、「指定時刻に達した時、停電等により指定動作を行なえず指定時刻を過ぎた場合には、この指定時刻の経過及び動作可能状態を検出した時指定動作を行なうよう構成した」という抽象的な定めによって成立しているにすぎないものであり、その「停電等により」は例示と解するほかなく、「指定時刻の経過及び動作可能状態」を検出する手段につき、それをどのように検出するか、常時検出動作をするものであるかを含め、何ら具体的な構成を規定しておらず、また、「検出した時指定動作を行なう」手段についても、特段の具体的な規定をしていないものである。

他方、引用例発明においても、問題とするのが相手側ビジーで送信できなかった場合である以上、指定時刻の経過が検知されていることは明らかであり、また、送信の目的を達成するためには、相手側がビジーでない状態であることが必要なことはいうまでもないことであるから、最終的に送信を完了するために相手側がビジーでない状態に行うべきステップの動作をさせるのは再トライにより相手側がビジーでないことが検出された場合であることも当然である。審決が、引用例発明について、「再トライする際には、当然送信が可能かどうかみて、可能な場合のみ送信させる」(審決書6頁19行~7頁1行)と述べたのも、この趣旨においてであると認められる。

そうとすれば、本願発明も引用例発明も、指定時刻に送信の目的を達成しようとしても障害のため障害のあるステップに進めなかったとき、次にその目的を達成させるためそのステップに進めようとするのは、その障害が消失してそのステップに進みうる状態にあることが検出されたときであり、それまでは指定動作を待機状態にしておく点で共通であり、この点において両発明に差異はない。

本願発明の選択した障害が送信側の指定動作開始不能に限られるとすれば、両発明で上記検出の対象及び指定動作開始の時点が異なってくるが、これは選択した障害の差異から生ずる必然的結果であって、そのこと自体に障害の選択を超えた格別の意味を認めることはできない。

結局のところ、本願発明と引用例発明との相違点(3)について、「実質的な相違点とは認められない。」(審決書7頁1~2行)とした審決の判断に誤りがあるとは認められない。

原告ら主張の取消事由3は理由がない。

4  以上のとおりであるから、原告ら主張の審決取消事由はいずれも理由がなく、その他審決にはこれを取り消すべき瑕疵は見当たらない。

よって、原告らの請求を棄却することとし、訴訟費用の負担につき行政事件訴訟法7条、民事訴訟法89条、93条1項を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 牧野利秋 裁判官 山下和明 裁判官 芝田俊文)

平成2年審判第767号

審決

大阪府守口市京阪本通2丁目18番地 鳥取市南吉方3丁目201番地

請求人 三洋電機株式会社 請求人 鳥取三洋電機株式会社

大阪府守口市京阪本通2丁目18番地 三洋電機株式会社特許センター

代理人弁理士 西野卓嗣

群馬県邑楽郡大泉町大字坂田180番地 三洋電機株式会社 AV事業本部

代理入弁理士 安富耕二

群馬県邑楽郡大泉町大字坂田180番地 東京三洋電機株式会社

代理人弁理士 岡田敬

昭和58年特許願第117919号「ファクシミリ装置」拒絶査定に対する審判事件(昭和63年2月29日出願公告、特公昭63-9420)について、次のとおり審決する。

結論

本件審判の請求は、成り立たない。

理由

本願は、昭和58年6月28日の出願であって、その発明の要旨は、出願公告後の平成2年1月25日付けの手続補正書により補正された明細書及び図面の記載からみて、その特許請求の範囲に記載されたとおりの、

「指定時刻、指定動作モード及び交信先電話番号を入力するキーボードと、現在時刻信号を発生する時計回路と、キーボードより入力されたデータを記憶するメモリ手段と、該メモリ手段に記憶されている指定時刻と時計回路の現在時刻を比較し、一致した時指定動作を行なうよう制御する制御手段よりなり、指定時刻に達した時停電等により指定動作を行なえず指定時刻を過ぎた場合には、この指定時刻の経過及び動作可能状態を検出した時指定動作を行なうよう構成したことを特徴とするファクシミリ装置。」

にあるものと認める。

これに対して、原査定の拒絶の理由となった、特許異議申立人、松下電器産業株式会社の特許異議申立に対する特許異議の決定の理由に引用された本出願前に頒布された刊行物である特開昭58-64865号公報(昭和58年4月18日出願公開。以下引用例という。)には、

送信時刻、送信原稿枚数と宛名電話番号から成る送信基準を入力するキーボードより成る送信基準入力部1と、時計機能を有する送信時刻検出部3と、キーボードより入力された送信基準を記憶する送信基準記憶部2と、該送信基準記億部に記憶されている送信時刻と上記送信時刻検出部の時計からの時刻とを比較し、一致した時送信基準で指定した所定の動作を行なうよう制御する中央処理部5よりなり、送信時刻に達した時相手側ビジーで送信を行なえない場合には、次の原稿を送信する時刻までは、何分かおきに再トライするようにしたファクシミリ送信装置。

が記載されている。

そこで、本願発明と上記引用例に記載されたものとを対比すると、引用例に記載されたものにおける「送信基準入力部1」、「送信時刻検出部3」、「送信基準記憶部2」、「中央処理部5」、及び「ファクシミリ送信装置」は、それぞれ、本願発明における「キーボード」、「時計回路」、「メモリ手段」、「制御手段」、及び「ファクシミリ装置」に相当することは明らかであるので、結局、両者は、

指定時刻、交信先電話番号等を入力するキーボードと、現在時刻信号を発生する時計回路と、キーボードより入力されたデータを記憶するメモリ手段と、該メモリ手段に記憶されている指定時刻と時計回路の現在時刻を比較し、一致した時指定動作を行なうよう制御する制御手段よりなり、指定時刻に達した時指定動作を行なえず指定時刻を過ぎた場合には、この指定時刻の経過後再度トライして動作可能状態にあれば指定動作を行なうよう構成したファクシミリ装置である点で一致し、次の点で一応相違している。すなわち、

(1) キーボードで入力するデータとして、本願発明では、指定動作モードを含めているのに対して、引用例に記載されたものでは、そのようなものを含めていない点、

(2) 指定動作を行なえない原因として、本願発明では、「停電等により」とされているのに対して、引用例に記載されたものでは、相手側ビジーの場合が示されている点、

(3) 指定時刻を過ぎた場合に、指定動作を行なう時点を、本願発明では、指定時刻の経過及び動作可能状態を検出した時としているのに対して、引用例に記載されたものでは、単に何分かおきに再トライするとされている点、

で相違している。

つぎに、この相違点について検討すると、

(1)の点については、

ファクシミリ装置の動作にいくつかのモードがある場合に、該装置を動作させる際にモードを設定する必要があることは当然のことであるので、そのようなファクシミリ装置に引用例に記載されるような技術を適用する場合、宛先電話番号、送信時刻の他に動作モードを設定するようにすることは、当業者が必要に応じて適宜成し得ることである。

(2)の点については、

本願発明における「停電等により」は、単なる例示に過ぎず、実質的な意味は何ら認められず、この点は、実質的な相違点とは認められない。なお、この点について付言すれば、ファクシミリ装置において、送信開始を指令しても送信を行なえないケースとして、相手側がビジーである場合の他に、本願明細書に記載されているような、停電の場合や当該ファクシミリ装置が他の動作を行なっている最中である場合があることは、明らかであるので、引用例に記載されたものにおいて、そのような場合にも再トライするようにすることは、当業者が容易に想到し得ることである。

(3)の点については、

引用例に記載されたものにおいても、再トライするのは、中央処理部によって指定時刻が経過したことを検知した後であり、また、再トライする際には、当然送信が可能かどうかみて、可能な場合のみ送信させるものであるから、この点も実質的な相違点とは認められない。

以上のとおりであるから、本願発明は、引用例に記載されたものから当業者が容易に発明をすることができたものと認められ、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものである。

よって、結論のとおり審決する。

平成3年3月7日

審判長 特許庁審判官 (略)

特許庁審判官 (略)

特許庁審判官 (略)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!